砲台と磐座(いわくら)のハイブリッド・宮ノ岳山について
こんにちは、久々にブログを書いているエヌです。
SNSは速報性がありますが、あまり後に残らないので、記録としてのブログも必要だなあ、と感じています。
さて、皆様、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたしょうか?
対馬には名前が付けられた山が177もあり(「日本の山を数えてみた」山と溪谷社)、日本の市町村でダントツの最多なのですが、連休中に8つほど山の調査をして、いくつか発見がありましたので、紹介します。
宮ノ岳山(みやのだけやま)
今回のターゲットは、長崎県対馬市厳原町久和(いづはらまち・くわ)の宮ノ岳山です。
事前調査では、
- 宮ノ岳山近隣の山頂で、安神(あがみ)地区の嶽の神祭りが行われている
- これまで確認されていなかった砲台跡がある
という情報があり、現地を歩くと、磐座(いわくら。神が宿るとされる巨石などを指し、古くから祭祀の対象)と砲台跡がありました。
地図: 長崎県対馬市厳原町久和 安神隧道 >>Googleマップ
安神隧道
登山口は、安神隧道(あがみずいどう)の西側出口付近。
安神隧道は、島の中心部・厳原と南部の豆酘崎(つつざき)砲台を結ぶ軍事国道(特殊国道)上に、昭和14年(1939年)に竣工(完成)したトンネルで、近代土木遺産Bランクに指定されています。
そのまま進めば久和隧道や浅藻隧道などもあり、隧道マニア垂涎です。
トレッキングルートの様子
さて、伐採作業道もありますが、作業中で危険な場合もあるので、早々に尾根道へ向かいます。
シハイスミレ(花は終わり、葉のみ)と、尾根筋ではアカガシが目立ちます。
四等三角点323.8mは、コンクリート&金属板の新しいもの。
一~三等は花崗岩製で、発見するとテンションがあがります。
すぐそばに、對馬要塞第二地帯標(陸軍省 大正十三年七月三日)第三號。
明治~昭和の要塞地帯法では、砲台周辺への立入はもちろん、撮影・模写・観察(スパイ扱い!)、魚釣りや農業まで禁じられるという厳しい罰則がありました。
竜ノ崎高角砲台
313m無名ピークに、砲台跡がありました。
対馬の砲台は、第1期(日清戦争)、第2期(日露戦争)、第3期(太平洋戦争)に分類され、計31か所もあるのですが、32番目の演習砲台が対馬グランドホテル周辺にあり、33番目の砲台が宮ノ岳山にありました。
うーん、芋崎や大平高砲台の高射砲座?も34・35番目に加えるべきなのか・・・。
対岸には竜ノ崎砲台(第3期)があるので、それを航空機から防御するための「竜ノ崎高角砲台」のようです。
↓情報元
戦争遺跡に行ってみた。~砲台探訪と山口県の戦争遺跡(スイカさん)
対馬海軍警備隊探訪5 ~龍ノ崎高角砲台
さらに陸防(陸軍省の軍用地境界標石)、侵入防止杭(コンクリート製、鉄線を張りめぐらせたもの)のオンパレード。
いやー、聖域へ導かれるインディ・ジョーンズの気分。
謎の磐座(いわくら)
そして、突如、姿を現す積石段。
軍の施設かと思いましたが、厳原町浅藻のオソロシドコロ(八丁角)に似ており、祭祀遺跡、磐座(いわくら)っぽい雰囲気です。
恐れ多くも、祭壇の中心に陸防が!(神をも恐れぬ帝国陸軍の仕業ですね)
そして祭壇の一部には、侵入防止杭が!(帝国陸軍をも恐れぬ対馬の民の仕業ですね)
聖地と軍事遺跡の島・対馬でも、他では見たことがない、神・軍複合体(コンプレックス)です。
存在感がすごい・・・。
宮ノ岳山・山頂
そして宮ノ岳山の山頂は、325.2m二等三角点。
花崗岩!!
地帯標がもう一本!
でも、そこに打っちゃダメ!
あ、探訪しようと思っていた「嶽の神山」は、厳原町誌によると、舞石ノ壇山と萱場山を結ぶ稜線のやや安神寄りの高所にあるとのこと。あの磐座(標高約300mの無名ピーク)がそうなのか、別に磐座があるのか・・・。
また歩いてみます。
おまけ
砲台も磐座も楽しめたので、ここで引き返しても十分なのですが、今回は調査なので、国土地理院の地図に記載されている作業道を確認するため、さらに南へ。
作業道の途中で、横穴壕をもうひとつ発見。下崎山も見えました。
宮ノ岳山は、片道約2.5㎞、標高250~300mほどで高低差が少なく、安神隧道と竜ノ崎高角砲台と磐座を楽しめる、好トレッキングルートでした。
177山の謎
「日本の山を数えてみた」(山と溪谷社)によると、国土地理院の2万5000分の1の地図に、名前の付けられた山の数が対馬市内に177もあり、全国の市町村でダントツの多さで1位です。(2位は同数タイ129山で栃木県日光市、新潟県阿賀町)
名前を付けるというのは、対象を他とは分けて、特別視すること。
「山の数ほど」という表現があるように、ありふれて、どうでもよいもののように扱われがちな「山」ですが、対馬では特別なものだったのです。
信仰の対象、山城、砲台、航海の目印、日々の食糧や燃料、道具の材料を得る場所であり、水を貯え、山の養分を川から海へ運び、空気を浄化し、火災や暴風から集落を守り、多くの生き物の住処となるなど、山はずっと島の人の暮らしを支えてきました。
いま、その多くが植林や2次林になり、ツシマジカの急増もあり、植生がかなり偏っている(シカが食べないシロダモばかり残っている)ように感じます。山に対する無関心や関わりの少なさが状況を悪化させているのは間違いありません。
対馬の89%は森林で、魅力的な山がたくさんあります。
新緑の5月に、まずは山歩きを始めてみませんか?
ご注意
対馬の山は、携帯電話が圏外のことが多いので、YAMAPなどの登山アプリをご利用ください。
圏外でも、人工衛星の電波を拾って現在地を教えてくれます。
予備のモバイルバッテリーも忘れずに!
あと、暖かくなってきたので、マダニ対策(虫よけスプレー、衣類用コロコロなど)、ツシママムシ対策(トレッキングポール、野生の勘など)も忘れずに!