白嶽

白嶽で発生した遭難事故(2016/9/4)について

2021/07/13トレッキング

 こんにちは、局長Nです。

 2016/9/4(日)に上見坂(かみざか)~白嶽(しらたけ)で、韓国人登山ツアー客(1名)の遭難事故が発生しました。

 消防・警察・自衛隊・市役所等の方々が3日間にわたって捜索し、さいわい、9/7(水)の朝に無事発見されました。

 いろんな問題をはらんだ事案だったので、事故報告レポートです。

白嶽遭難事故について

 まずは基本情報を。

白嶽

白嶽

 石英斑岩の双耳峰が美しい対馬第一の名山。信仰の対象・霊峰でもあり、九州百名山のひとつ。登山者にも好まれ、特に近年、韓国人登山者が急増しています。

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ルート図

遭難ルート

洲藻登山口ルート

 ※上記ルート図の赤点線

 登山口は、対馬市美津島洲藻(みつしままち・すも)の集落奥にあります。通常の登山ルートです。

 登山口から山頂までの距離(片道)は2.2km、コースタイム(登山用語: 休憩をのぞく、おおよその徒歩移動時間)は、登り90分、下り60分。

 ※実際には途中で休憩や写真撮影をしたり、また急勾配の登攀をともなうため、人によっては往復5時間以上を要することもあるので要注意です。はじめての山では、コースタイムの1.5倍が目安になります。

 コース: 洲藻登山口~1.5km~鳥居分岐点~0.7km~山頂~0.7km~鳥居分岐点~1.5km~洲藻登山口 (距離計 4.4km)

上見坂登山口ルート

 ※上記ルート図の緑点線+青点線

 白嶽南東の上見坂登山口(県道24号線上、上見坂公園まで1.4km地点)から白嶽を目指すコースで、国内・島内の登山者はほとんど利用しませんが、韓国人登山者はよく利用しています。コースタイムは3時間45分。

 コース: 上見坂登山口~5.2km~鳥居分岐点~0.7km~白嶽山頂~0.7km~鳥居分岐点~1.5km~洲藻登山口 (距離計8.1km)

今回の遭難事案

ツアーで設定されたルート

 ※上記ルート図の緑点線

 上見坂登山口~5.2km~鳥居分岐点~1.5km~洲藻登山口 (距離計6.7km) コースタイム 2時間30分

 ※白嶽山頂まで0.7kmの鳥居分岐点を素通りし、白嶽山頂を目指さないで洲藻登山口に下りることになります。白嶽山頂までは行かないけど、それなりの距離は歩きたい(?)という不思議なルートです。

予定行程

9/4(日)
 15:00 ツアー客70名で、上見坂登山口から登山開始。
 18:30 洲藻登山口に集合。

今回の遭難事例

9/4(日)
 15:00 ツアー客70名で、上見坂登山口から登山開始。
 16:00 遭難者1名(男性72歳)を含む15名ほどが、鳥居分岐点から白嶽山頂へとコース変更。
 18:00 洲藻登山口で遭難者が不在であることに気づき、引き返して捜索するも発見できず。
 20:00 ガイドが対馬南警察署に通報。

9/5(月)
  8:00 対策本部を構え、消防・警察等で捜索開始。
 13:00 自衛隊の派遣を要請。
 17:15 発見にいたらず、捜索終了。

9/6(火)
 8:30~18:00 ヘリ等を使って終日捜索するも、発見に至らず。

9/7(水)
 8:59 自衛隊(対馬警備隊)が遭難者を発見。ケガなし。
 私も山の案内を頼まれることが多いので、再発防止のためにも、今回の課題を検証してみます。

1.危機管理(ツアー会社の問題)

 このルートのコースタイムは2時間30分なので、15:00開始、17:30終了、1時間の余裕という計算になりますが、15:00登山開始というのは致命的なミスです。

 いまの時期の日没は18:30ころですが、山中、特に東側斜面は日没前に真っ暗になります。

 どの山でも遅くとも15:00には下山口に到達するなど、登山のルール作りを徹底しないと、また事故が発生します。

 さらに、9/4には九州中部まで台風が接近しており、翌日には対馬に最接近する予報でした。

 国内の登山ツアーでも、天候が悪いのに無理に入山して事故を起こす事例が発生しています。

 数ヶ月前から参加者を募集することが多いため当日の天候の予測ができず、またガイド・添乗員と参加者間に信頼関係が薄く、参加者同士で面識がない場合は、「悪天候でも登りたい!」という一部の強硬な意見に引きずられがちです。

 参加者が多くて意思決定が難しく、すでにツアー料金が払い込まれているので中止しにくい、という団体登山ツアー特有の問題です。

2.個人行動(参加者の問題)

 ツアーに参加していながら、別行動をとるのは危険性を増大させる行為です。

 白嶽山頂を目指した場合のコースタイムは3時間45分なので、洲藻登山口に着くのは18:45になり、集合時間にも間に合いません。(すでに周辺は真っ暗です)

 集団行動のルールが守れないのであればツアーに参加するべきではありませんし、身勝手な行動は登山者や捜索者などたくさんの人を危険にさらすことになります。

 全国的に、100円均一の雨ガッパで登山するとか、行動予定を誰にも伝えていないなど、常識が常識ではなくなってきている現状を感じます。

3.ベテラン&経験者あるある

 頂上付近で救助を待っていれば、9/5(捜索初日)に発見されていたはずなのですが、9/7に発見されたということは、面積が広く捜索が難しいエリアを、ケガのリスクをおかし、体力を消耗させながら、動いていたということ。

 ベテラン・経験者になればなるほど、実力・経験の過信や、迷ったこと・捜索隊が出動したことへの恥ずかしさや焦りから自力で下山しようとして、事態をこじらせがちです。

 まあ、自分が遭難したとして、山頂で体育座りでヘリを待つ、という恥ずかしさ、申し訳なさ、バツの悪さといったら無いですけどね(-_-;)

4.携帯電話と予備電池

 通話ができれば捜索も格段にはかどりますし、遭難箇所から写真を送信すれば場所の特定もしやすく、GPSでの位置特定も可能で、予備バッテリがあればさらに安心です。

 山頂付近は電波が届くので通話や地図アプリが使用でき、徒歩・空中からの捜索も容易です。低域に迷い込むと、その逆になります。

 携帯圏外でも使える有用な登山アプリもありますので、ご検討を。

 >>YAMAP始めました(ブログ 2016.02.08)

5.案内板・誘導板の整備

 対馬でも年に数件程度の道迷い(警察に通報があるもの)が発生しています。

 今回の事例はかなり特殊だとしても、案内板や誘導板(小さな矢印やリボン程度でも、安全性・安心感は格段に高まります)を設置し、道迷いを最低限に抑える取り組みが必要だと感じています。

 >>白嶽での遭難(道迷い)について(ブログ 2013.01.04)

6.なぜ山に登るのか

 山は人に大きな恩恵を与えてくれる一方、簡単に人の命を奪う恐ろしい場所でもあります。

 都市には人間がデザインしたものしかありませんが、山には大地・岩・土・動植物・光・風・雲・雨・大空などで構成された、雄大で荒々しい自然美が満ち溢れています。

 山歩きは、自然の素晴らしさを実感する優れた方法であり、心身の健康を増進し、知的好奇心を満たし、自分自身や他者を知るコミュニケーションの場でもあります。

 しっかりした装備と準備、適切な判断を心がけ、(できるだけ人に迷惑をかけないよう)充実した時間を過ごしてほしいと思います。
(できれば対馬で)

 大事なのは、生きて帰ることです。

7.グチ

捜索隊

 遭難者が発見された日、スペシャルゲスト東京から3名様(著名アウトドアブランド2名様+編集者1名様)と白嶽登れなかったよー!
(捜索隊から「遭難者の家族の方ですか?」と聞かれたけど、違うよー!)

ロングトレイル

 遭難事故の前週に実際に歩き、事故前日に下書きした「洲藻登山口~白嶽~上見坂登山口~有明山・清水山~厳原市街地」の7時間20kmのロングトレイルの記事、アップしにくいよー!
 (ロングトレイルの魅力を熱く語るつもりだったよー!)

最後に

 この記事を読んで、自分も気をつけねば、と思った登山愛好者は多いはず。

 こういう事故が起きると、遭難者が個人攻撃されることが多いのですが、事故は誰にでも起きる可能性があります。

 私も気をつけます。

 捜索に参加された皆様、猛暑の中、お疲れ様でした! <(_ _)>